負けに等しい引き分け、2-2で終えた敵地での試合はそう評価する方が多いかもしれない。
ヴィラ・パークでの対決前下馬評は若干アストン・ヴィラに傾いていたようだった。今のアーセナルでは彼等に勝利することは難しい。私自身、アーセナルがこういった試合展開でヴィラとの試合を進めていくなど予想はしていなかった。最高でも勝ちはしないが負けもしない。満身創痍での最悪の内容での引き分けだと思っていた。
試合が開始される直前、ジュルとヴェンゲルの何らかの会話の様子が映り、その後ジュルがスカッドが外れていることが発表される。メンバーはアデバヨールとセスクを抜いた中での現状のベスト。復帰してきたトゥレがギャラスとCBコンビを組み、クリシは疲労のためかLSBを外れそこにシルヴェストルが入る。中盤にはデニウソンとソングのコンビが底に位置し、ナスリとエブエがSHに。ディアビがセカンドトップの位置でトップのファン・ペルシを補佐するフォーメーション4-4-1-1だった。
試合開始からアーセナルはヴィラにサイドを抉られ、CKを量産される。開始直後のCKはフリーとなった相手選手のヘディングしたボールがクロスバーに直撃しデニウソンの頭部に当たり、何とかゴールを免れる。その選手についていたのはアレクサンドレ・ソング。この試合彼は前半の28分ほどで途中交替するが、毎回のようにこの試合もチェイスを怠り足だけ伸ばして相手を止めようとしたプレーでカードをもらう。あまりに速い時間帯のイエローは、DHとしての彼の役割を抑制する一番の枷だ。それを分かっていながらも同じようなプレーに終止する彼をヴェンゲルは何故使い続けるのか。
この試合の前半アーセナルは1点先制して折り返した。だが、リザルトを見るととても酷いものだった。枠内シュート2本中1本がゴール、CKに至っても1本程度だったように思う。しかしながらポゼッションは55%を確保していたというところは驚きだ。その原因は、ファン・ペルシの後ろに位置した彼にあるだろう。アブ・ディアビ。188cmという大柄な巨体と柔軟なテクニックを持ち合わせた彼が、ボールを奪取される姿というのはあまり試合中にも見られない。あるとすれば遅すぎる判断によるパスミスと、無理矢理過ぎる突破によりボールが足元から零れてしまうといったことからだろう。持ち前のキープ力で前後半何度もドリブル突破を繰り返す彼のプレーはアストン・ヴィラの選手達の驚異になったことは間違いない。彼のおかげで何人も選手が引きつけられ、他の選手のプレーエリアが広がったことはアーセナルの唯一のヴィラを攻略する糸口だったようにも思う。ただ、もう一つの彼の特徴の”空気を読まないプレー”はこの試合に置いても諸刃の剣となっていたが。
前半40分過ぎにデニウソンがパスカットしそのまま零れたボールを左足で相手ゴールに叩きこんだ。0-1。この得点が入るまでヴィラはアーセナルゴールに何度も襲いかかった。シドウェル、ミルナー、デイヴィス。彼等が放ったシュートはポスト、クロスバー、またはDF陣にぎりぎりの所で跳ね返され得点とはならなかった。そのツケとは思わないが何とも皮肉な結果だったろう。ゴールパフォーマンスを行うデニウソンに駆け寄ってきた選手達も自分たちが先制するとは思わなかったのだろう。かなり驚いていたようだった。
42分にはキーパーがファンブルしてゴールに吸い込まれそうになったボールをRSBのサニャがバイシクルでクリアする。何ともしても死守するそういった気概が見受けられたプレーだった。
そして後半へ。後半早々ディアビが相手選手の股にヒールでボールを通し、そのままドリブルで持ち上がる。左にはペルシが開き、ディアビと共に右にエブエが併走していた。そのエブエにボールを一度渡し、エブエはペナルティエリアに進入した後にディアビにボールを戻す。オンサイドポジションからDF陣を抜け出したディアビは右足でキーパーとの一対一を制し追加点を決める0-2。
正直この時点でやれるんじゃないかと思った。事実気落ちした相手にアーセナルは猛攻を続け、ファン・ペルシの左足がポストを叩いたシーンもあった。あの時決めていれば。前半はヴィラがその立場だったが後半はアーセナルにその言葉は相応しかった。
長い一本のロングパスにアグボンラホールとギャラスが併走を続け、最終的にギャラスがペナルティエリア内でアグボンラホールを倒しPKを与えてしまう。1-2。だが、この試合多くのピンチを防いでくれたギャラスのこのプレーに文句を付ける必要はない。しかしながら得点をし勢いづいたヴィラは最後の最後91分に劇的な同点弾をナイトが決めドローとした。
結果的にヴィラとの差は縮まっていない。だが収穫の多い試合だったと思う。何よりトゥレが戻ってきてくれたことは何よりの朗報だ。彼の存在により守備陣との綿密なコンタクトを行う中心ができたため、以前よりも守備陣に締まりができたように感じた。デニウソンの得点後すぐにヴェンゲルの元へ行き戦術面でのコンタクトを取っていた姿を見ても、彼こそが現状のフィールドプレーヤーのキャプテンに向いている。彼のような存在が中盤にも一人いればいうことはないのだが、それは冬の補強時に期待しよう。
そしてナスリ。この試合彼が輝いていたのは守備面だった。持ち前のスピードで相手に食らいつき、なかなかボールを前に運ばさせなかったことは特に前半に置いて非常に効いていた。彼の働きがなければ前半ヴィラを0で押さえることはなかっただろう。80分で交替したのもそういったことから疲労がチーム内で一番だったからだと思われる。ポーツマス戦までにどれほど回復できるのかは心配であるが。
デニウソンは積極性が以前に比べて増してきた。自らボールを前に運び、すぐに倒れることも少なくなったように思う。パスの精度そしてキープの仕方にはいくらか問題はあるが、戦おうとする姿勢は見て取れるものだった。頼れる存在がいなくなったということが前節と同じようにいくらか効いてきたようだ。
ただ、ディアビにおいては毎回のようにいわれることがこの試合でも起きた。それは体力切れによるプレーの停止。80分か90分だったかもしれない、明らかにキープできるロングボールに反応しなかった姿で、私はヴェンゲルは交替を決意するべきだったと思う。
交替枠はソングをラムジーに替えたことで残り2つ。ディアビを誰と交替させるかが問題だが、現状ヴェンゲルが最も起用する選手を選ぶとすればこの人ベントナー。1点リードしているとき、守りに入っているときにベントナーを投入するなんて常識的に有り得ない。そう仰る人も多いだろう。だが、ベンチには守備的な選手はおらず、起用するならば彼しかいないのだ。ヴェンゲルは誰も起用しなかったが、私は誰を起用するかではなくその時間帯に交替を行うことに大きな意味があると思って発言している。
この試合選手達はできる限りの力で試合に臨んでいた。誰もが勝利に向かいプレーしていたことは明白だ。だが、その中で緩慢なプレーをしだした選手がチームにまずいい影響を与えるはずもなく、FWであろうとヴェンゲルの指示で如何様にでもプレーさせることができるし、体格もあるし、高さもある。いくら得点を取ったとはいえ、いるかいないか分からないような状態になった選手より、体力気力共に有り余っている選手を起用することの何がいけないのか。
そして、彼をロスタイムに入って相手が非常に焦りだした時間帯に投入することで20秒ほどの時間と、相手へプレッシャー、苛立ち、焦りを与えることができる。何より相手サポーター達は当然ブーイングの嵐を降らすではあろうが、そのブーイングが一番効くのはヴィラの選手達なのだ。そうすればプレーに僅かではあるが誤差が生じることもあろう。その僅か、それが勝利に結びつくか否かを決定づけることもある。つまり、勝負事に置いて一番必要な駆け引きがこの試合には欠落していた。特にリードしている者だけが行使できる特権をヴェンゲルは捨て去ったのだ。確かに試合の大半はプレーする選手達の影響で決まることだが、監督も試合に影響を与えることのできる数少ない人物なのだ。私はこの試合誰よりもヴェンゲルの足掻きが見たかった。彼自身のそういった姿は必ずチームに影響するはずだ。監督の心情はチームに直に影響する事をヴェンゲルはもっと考えるべきだ。
ヴィラとの試合は引き分けた。しかし収穫も多かった。次は如何にこれを持続していくか、それが一番大切だと思う。